第三回 スペシャルインタビュー 前編


土合朋宏
ワーナー ブラザース ジャパン合同会社 
マーケティング本部統括、上席執行役員  バイスプレジデント

【略歴】 一橋大学大学院商学研究科卒業
外資系戦略コンサルティングを経て、日本コカ・コーラに入社。16年間マーケティング本部で、ファンタ、アクエリアス、爽健美茶など既存ブランドの立て直しや、綾鷹などの新製品開発などを指揮。
その後20世紀フォックス ホームエンターテイメントに移り、代表取締役社長を務め、2017年ワーナー ブラザース ジャパン合同会社に入社。
  • 昨年より始まりましたいけばなリュクスの特別企画、エグゼクティブのいけばなスペシャルインタビューも第3回目となります。
    今回はエンターテイメント・ビジネスから土合朋宏さんにご登場いただきました。よろしくお願いいたします。
  • 土合よろしくお願いいたします。
  • 土合さんはワーナー ブラザース ジャパンでマーケティング本部統括 バイスプレジデント、上席執行役員でいらっしゃいますが、実際はどういうお仕事でしょうか。
  • 土合映画会社の仕事は、大きく分けると、映画の制作、映画の配給・公開、ブルーレイ・DVDの販売とデジタル配信、テレビ局への映画放送権の販売、そして登場するキャラクターのライセンス商品の販売などがあります。この中で僕の仕事は、映画制作以降の4つの活動でのマーケティング・宣伝を責任者として担当しております。
  • すごいですね。土合さんは、最初からこのような業界で仕事をしてらしたんでしょうか。
  • 土合映画業界は今年7年目で、それより前は16年間、日本コカ・コーラでマーケティングを担当していました。
  • ずっと重要な役職をこなされている中で、自分の趣味ですとかホッとするような時間というのは取りにくいとは思います。
    そういう中、2015年の6月に入会してくださり、ずっと月2回のペースでお稽古に通ってくださること本当に感謝しております。
    以前から伺いたかったのですが、最初はどういった感じでいけばなに興味を持たれたのですか。
  • 土合いけばなを始める前から花に興味がありまして、アメリカにロバート・メイプルソープという写真家がいて、かなりセクシュアルなアート写真が有名なのですが、彼は晩年には結構花の写真を撮っているんです。僕が一番多感な大学生の時、ニューヨークでたまたま彼の回顧展に行き、凄い衝撃で花の写真が強烈に目に焼き付いて、そこから花に興味を持ちました。 外資系の会社にずっといたということもあって、外国のスタッフとかエグゼクティブと話す時に日本の文化の話になったりすることが多く、もっと日本のことを知りたいという意識が強くなりました。ずっと茶道や華道に興味があって、ある時僕の友人ニ人に相談をしたら、そんなに興味があるんだったら一回体験でお花をしてみた方がいいって言われ、それがいけばなであれば池坊が絶対にお勧めだということで門を叩いた、ということなんです。

    その友人はお勧めの時にどういうところがいいという話ではなく、「とにかく一度トライしてみたら」という感じですか。

    土合自分としてお花に興味があるということ、それから日本の美、「日本人がどういう風に美しいっていうものを考えてきたか」ということに興味があるっていう話をしたら、「それだったら絶対にいけばなをやった方がいいよ」って言われたんです。
  • 良かったですね そういうお二人に背中を押していただいて。
  • 土合本当にそうです。出会ってなかったら、興味があっても始められたかわからないですし、後押しされなかったら行きにくかった。だから近いところで背中を押してくれたのがすごく良かったなと思います。
  • トライアルレッスンで実際やってみた第一印象はいかがでしたか。
  • 土合最初は周りが知らない方達で緊張しドキドキでしたけれど、やっていたらすごく面白かったので、「ああ、思った通りだった。これは絶対やろう」と思いました。緊張したのも忘れ、面白かったという印象しか残っていないですね。
  • その後、月に2回はお稽古され、今年正月はインターネットエキシビション、その前には日本最古の花展である京都の旧七夕会という花展に出瓶されました。
    旧七夕会はリアルな花展、その直後に撮影があったインターネットエキシビションの花を生けるという、このニ回の花展の感想をお聞かせください。
  • 土合先生に「勉強になるわよ」と言われたのは本当でした。自分としては大変いい機会だったなと思います。
    通常のお稽古は今日の花材をわたされて生けていきますが、エキシビション、花展となると花自体も自分で自由に選んでいい。花器も自分で選ぶ、テーマを自分で考える、全てを一から自分でやらなきゃいけない。今まで考えたことがありませんでした。どういう花器にはどういう使い方した方がいいんだとか、どういう花がその季節にも合っているのかなど、すごい勉強になりましたから、機会があればまたチャレンジをさせて頂きたいな、と思っています。
    正直、素人の僕に声がかかったので、初歩的な花展かと思って軽く、是非と言ったのですが、大変なことになりました。
  • ええ、あれはそんな軽い花展ではないですよ。伝統のある池坊の一年をスタートさせる最も重要な花展です。
  • 土合はい、僕もあとで仰天しました。お花を習ってらっしゃる方からは、 「え〜もう花展出たの!?」と驚かれ、普通の人にも「実は僕 お花習っているんです」と言ったら、え〜 !と。「花展にも出させて頂いたことがあるんです」と言うと、それがえ〜え〜え〜‼︎ って。やっぱり普通は相当経験を積まれ、ある程度のスキルを持った方しか出られないことなので 大変光栄でした。実際いろいろな方にお褒め頂き、刺激を受けました。
  • そうですね。あの「経済界の華道人」という特別コーナーは、去年初めて旧七夕会に作られ、とても反響がありました。来場された皆さん、作品の側に置いてある紹介パネルの会社名や個人の説明を見ながら、花を見てまたパネルを見て。
    本当に興味津々で、こういう方がお花を生けるのね、みたいな感じで話題になりました。多くの方に、あらゆる業界の、そして活躍している方がいけばなをやっているということを認知して頂く絶好な機会になったと思います。ありがとうございました。
  • 土合とんでもないです。
  • 普段のお稽古あればこそですが、ニ年ニヶ月通ってみて、うちの教室ってどんな感じでしょうか。
  • 土合僕は、本当に先生のところじゃなかったら続いていなかったなぁと思うんです。最初に来た時の第一印象ってあるじゃないですか、三十代四十代の方がたくさんいらっしゃって、しかもカジュアルで皆さんがこう和気あいあいとされている雰囲気でした。他の生徒さんにもいろいろ紹介していただいたり、男性の方もいらっしゃって。初心者でも入りやすかったし、皆さんと近づきやすい 、それはすごく良かったですね。
    それから二年経ってもっと池坊いけばなを深く知りたくなると、先生がとても丁寧に教えてくださったり、論理的に説明してくださるのでわかりやすいです。「今でもどんなに忙しくても教室に来て学びたいな」と思うのはやっぱり森先生のご指導があるからだと感謝しております。
  • 土合さんのような企業のトップ にありながら、忙しい中にもお稽古を続けてくださっている方が増えてきたということもあって、自分も意識して感覚的な言葉でなくなるべく論理的に、こうこうだからこういう風になっていく、というようにわかりやすく説明するよう心がけています。それが自分にも跳ね返って自分の学びにもなっているのはありがたいです。うちの教室は女性も男性もおっとりとした、、
  • 土合ギスギスしていない。
  • そうですね、それが嬉しいです。
  • 土合華道に興味を持ってくれる友人たちにも、「とにかく一度一緒に行こう」って自信を持ってお勧めできます。すごくいい雰囲気。
  • そういえばもうお二人紹介してくださって、トライアルされてそのまま入会してくださっています。
  • 土合これからもじゃんじゃん紹介します。
  • 皆さん素敵な方ばかりなので。やっぱり素敵な方は繋がっていくなと言う感じが印象としてあります。
    土合さんは、これからいけばなでこういう風にしていきたいという夢や目標はありますか。
  • 土合僕はもうとにかく立花、立花を絶対に学びたいです。立花をするまでいかないと池坊の真髄には辿り着かないなと思うので。何としても立花まで教えをこいたいと思います。それから、生花新風体も教えて頂きたいですね。
    将来もっとカジュアルにいろいろな形でいけばなを伝えるときには、新風体のエッセンスを自由花にも取り入れてあげると、経験のない方とか海外のかたとかにも池坊の面白さを広めやすいんじゃないかなと思うからです。
  • 素晴らしい目標です。新風体のエッセンスというのは池坊の美の根源そのもの。そこをわかっている、というのと、なんとなくというのでは全く違いますし、伝える側になった時もとてもいいと思うので新風体は是非チャレンジして頂きたいです。また、立花ももうすぐお稽古を始めることができますから、頑張ってください。
    では、教室に関する最後の質問です。総括として、ニ年ニヶ月お稽古してみて一番良かったなと思うところはどんなところですか。
  • 土合そうですね。自分にとって一番良かったと思うのは、もともと「日本人がどういう風に美しいとか美というものを歴史的に捉えてきたのか」という問題意識があったのですが、そのことが池坊のいけばなを通してわかりかけてきた気がするんです。「西洋の人がどのように美を捉えてきたのか」と比較することで、「ここが似てる。ここが違う」と見えてくるので 、やればやるほど深くなっていくのは知的に非常に楽しいです。
    それから、頭の切り替えにはなっています。ビジネスではかなり数字を扱うので、しばしば論理的思考が求められるのですが、純粋にその花だけに向き合う時間があることで、右脳と左脳がだいぶ切り替わりますし 、面白いことに集中するからか、集中力が増していると感じます。
    また、最近は社員それぞれがワークライフバランスをきちんととっていくことが重要で、仕事一辺倒な人間でなく、自分の趣味やパーソナルライフに時間を使うのを会社としても奨励しています。多面性がある方が面白いと会社の人事も考えていますので、「ワークライフバランスをきちっととろうよ」と言う立場からも良かったと思います。
  • そうですね。上司がそういう風に率先して素晴らしい経験を積んでくださっているとオフィス全体も活性化すると思います。
    気づいたのですが、いけばなにもエンターテイメントの部分は有ると思います。でも、そこにはなかなか若い人に気づいてもらえない。彼らが目を向けているところが、土合さんがいらっしゃるエンターテイメントの世界だと思うのですが、何か通ずるものはありますか。
  • 土合エンターテイメントといけばなというトピックでは、いけばなの持つエンターテイメント性をもっとひろげられるのではないかという感じがするんですね。
    いけばなには知的なエンターテイメントという側面の他に、体験するエンタテインメントと見るエンタテインメントが有ると思います。 僕たち実際にいけばなを学んでいる人間にとっては、まずは体験するエンターテイメント。
    自分の体験から感じるのは、実はいけばなは誰にでも始めやすい立体アート(造形)ではないかということです。高さや 左右、縦横、前後ろと花や葉をふって、立体的なバランスをとりながら自分の表現を形にしていくアートなのだと思います。
    その一方で、そこに至る以前の人達にとっては、「見る」ということだけでもエンタテインメント性があり、いけばなもこの「見るエンターテイメント」という側面が強調されてもいいのではないかという気がします。それはどういうことかというと、花を買うにしてもほとんどの人は具体的に自分で花を選ぶということをしません。「こういう雰囲気でお花を作ってください」と言ってお花屋さんが作ってくれたものを持ち帰ったりプレゼントしたりして、それを眺めることを楽しまれています。だから、「美しく生けられた花を見ること自体が楽しい」という側面が絶対にあると思うのです。その見て楽しむっていうエンタテインメント性は、もっと強調してもいいんじゃないかと思います。
  • 素晴らしいことを仰っていただき、ワクワクしてきました。そこを掘り下げていきたいのですが、その見るエンターテイメントには、なにか具体的なイメージが土合さんの中にお有りですか。
    インタビュー後編はここからさらに、深く伺っていきたいと思います。皆様、10月後半をぜひ、楽しみにお待ちください!