第一回 スペシャルインタビュー 前編

  • 今回のゲスト、高槻さんは株式会社インスパイアの代表取締役社長であり、今年6年目にはいる法人華道部の代表です。
    高槻さん、こんにちは、今日はお話を伺う機会を戴き有難うございます。 初めてのお稽古から5年が経ちました。きちんと継続してくだるメンバーの皆様には心から感謝をしています。
    先ずは、どうしていけばなを習おうとおもわれたのか、動機ときっかけを教えてくださいますか
  • 株式会社インスパイア 代表取締役社長 高槻亮輔さん
    (株)日本興業銀行、(株)インターネット総合研究所を経て、(株)インスパ イアに入社(2008年より現職)。
    2014年春に日本初のイスラム法適 格投資ファンドを組成、日本企業のHalal対応やASEAN進出を支援している。
  • 溜池山王にオフィスがあった頃に、近くに京都館がありまして、そこにいらっしゃった方とお茶をしていたときに「華道はもともとは男性の嗜みであった」ということを教えて頂いて興味を持ちました。その方が、オフィス内での華道体験の機会をアレンジしてくださり、他の男性社員にも声をかけて参加したのがきっかけです。その後、池坊本部のご配慮もありまして、法人華道部ということで、池坊東京本部の教室を貸して頂き、本格的な活動が始まりました。
  • 初めてインスパイア華道部のお稽古をしたとき、全員男性でスーツ姿、とても緊張したのを覚えています。
    準備も普段のお稽古と変えて、講義を主にしようと手書きでレジュメを書いていきました。敢えて手書きにすることで、池坊の歴史や奥の深さを知っていただきたかったのです。
    今はすっかり打ち解けて皆さん頼もしい限りですが。 他流あるなか、池坊を習いたいと思われたのはどうしてですか。
  • 偶然の御縁ということでしょうか。母が草月流を嗜んでおりましたので、華道が何たるかを少しは知っていましたが、その当時、華道界における池坊の位置づけも歴史も知りませんでしたので、自ら池坊を希望したということではありません。森先生にご指導を頂くようになってから、そのあたりの知識は身につけましたけれども。

  • インスパイア華道部初期のお稽古風景
  • 実際にいけてみて、第一印象はいかかでしたか。
  • 初回は自由花でした。共通の花材を参加者それぞれがまったく違う受け止め方をして、好き好きに生けるわけですが、個々の世界観が滲み出ることに驚いた記憶があります。ボクは、花材のひとつが触角に、またひとつが甲虫の硬い羽のように見えてしまったものですから、甲虫をイメージして生けました。一言目には「綺麗ですね。」と言ってくれた参加者も、その意図を説明したら「そうなんですか、、、。ちょっと気持ち悪い。」と言われてしまいまして。自由に生ける、ということでしたが、「テーマ・題名を決めて生ける」ということだけがルールでしたので、意図と与える印象の違いなども楽しんでいたように思います。
  • そうですか。私は学校華道の指導で、女子校や小学校に行きますが、子供の頃に花をいけて感受性を養うのはとても大切と思います。子供の頃はどんなお子さんだったのかぜひ教えてください。
  • 0歳の途中から7歳の途中まで東京の目黒区に住んでいました。幼稚園の頃には、毎月毎月、上野動物園か多摩動物園に行き、小学館の動物図鑑はボロボロになるまで読みふけっていたそうです。その後、父の転職に伴い、静岡県磐田市に引越しまして、高校卒業までおりましたが、磐田原大地の野山と天竜川水系の河川、トンボで有名な桶ヶ谷沼、そして太平洋遠州灘と変化に富んだ自然の中を駆け巡って育ちました。花木よりも、昆虫や魚や動物に興味があり、採集して自宅で飼育したりもしていました。
  • 面白いですね。子供の頃の環境はとても大切。感受性や好奇心がふくらむことで、人生のフィールドも豊かになります。御両親様にもお目にかかり、良い御縁が広がりました。
    さて、実際華道を始めてから、何か変わったことはありますでしょうか。
  • 季節の先取りができるようになりました。そして、朝の通勤時ですとか、昼の移動時などに目に入ってくる景色も変わったと思います。庭先の花壇、ご近所の垣根、公園の木立、目抜き通りの街路樹などなど、東京の真ん中でも植物の変化を通じて季節を感じ取れる場所はたくさんあります。更に法人華道部では、毎回、季節を先取りするテーマで自由花や生花を生けますから、自然と感性が磨かれてきたのではないかと思います。
  • 高槻さんの事業開発が、今やマレーシアを入り口としたイスラム圏にまで発展されていることには驚きとともに期待が高まります。
    海外では日本の伝統文化はどのように認識されているのでしょうか。
  • 今はASEAN諸国の方々とのやり取りが多いのですが、まず、日本そのものに対しての憧れや、日本人に対する尊敬の念を感じる機会がよくあります。それは、日本の伝統文化に対してというよりも、古くは繊維、その後のバイクや自動車、家電製品、産業機械などなど、我々の先達が切り開いてくださったMade in Japanの製品や付随するサービスに立脚しているように感じます。ただし、彼らとコミュニケーションをする際に、池坊には550年以上の歴史があることや、陽方と陰方の考え、その結果としての非対称の美について話をすると、ほぼ例外なく驚嘆して話に聞き入ってくれます。この3月にイオンがKuala Lumpur近郊のShah Alamというところに新しいMallを出店しました。4月には「Ohanami Festival」ということで、メインステージに模造の桜の木々と赤い毛氈を敷いたお休み処が設置され、多くのマレーシア人が集まって楽しんでいました。アルコール飲料は禁止なので、酒盛りにはならないのですが、桜を愛でるという感性は通じていた様子でした。

  • マレーシアで開催されたお花見フェスティバル
  • 以前、高槻さんがNHKスペシャル『ジャパン・ブランド』に出演された時は、日本人として本当に頼もしく誇りに思いました。 反響はいかがでしたか。
  • 日本の地方にこそ大いなる可能性があると思っておりまして、現在、インスパイアの関連会社が運営している投資ファンドには10の地方銀行に出資を頂いております。地方銀行を通じて、日本の地方の有力企業の経営者をご紹介頂く意図もありまして。NHKスペシャルの視聴率は知りませんが、日本中どこでも多くの方々に見ていただいているようで、放送後は行く先々の面談で番組の話が話題になりました。また、映像化して頂くことで、ボクたちの考えていることがコンパクトに分かりやすく纏められたという効果も感じています。
  • 私もさらに真剣に、皆さんに役立てていただけるよう、お稽古に取り組んでいきたいです。
    そして、いけばなbijouxという私と生徒さんがたくさんいて教室全体の雰囲気があると思いますが、高槻さんからの印象はいかがですか、正直にお応え下さい 笑
  • 森先生の関係されている教室でいけばなを学んでいる方は皆さん明るくて華やかでとても上品だと思いま.法人華道部にアシスタントして来てくださる方々もふくめて、お綺麗な方が多いので、男性華道部員はその意味でも毎回を楽しみにしているのではないかと思います。
    これはお世辞ではなく、本心です。華道も茶道も、あるいは剣道や柔道も、「道」がつきます。これは、長年の鍛錬・修練の先に広がる世界があるがゆえに、それを目指す道を歩んでゆくということなのではないかと思いますが、「道」を長く歩むにつれて、精神も鍛えられますので、凛とした雰囲気や折り目正しさを身につけることができるように思います。
    森社中はそういった美しさを体現できている集まりになっているのではないでしょうか。

  • 会社のセカンドオフィスで花をいける高槻さん
  • 有難うございます。皆さん綺麗で輝いているかたばかりです。私は幸せです!だからこそ、さらに輝いてほしいと願うのです。男性の生徒さんも増えています。さっきまで仕事で緊張していたなと思えるかたには、先ずはクールダウンしていただき、徐々に華道の世界に入ってもらうよう様子をみています。
    いけばなに集中しながら肩の力が抜けて、穏やかな顔になっていくのを見ると、私もほっとします。
    ここ2年ほど、教室の生徒さんから有志を募り、いけばなbijouxというグループとして花展やイベントを開催してきました。
    高槻さんにもお忙しい中を参加頂き、いろいろなアイディアや御協力を頂きましたが、実際に参加された感想をお聞かせください。

  • 第一回表参道エキシビション

  • 第二回御茶ノ水エキシビション

  • コラボレーションイベント『 Whight  Love 』
  • いけばなbijouxの花展は、第1回が表参道のWAnocoto、第2回が御茶ノ水の池坊東京会館でした。出瓶も運営もすべて森社中で行ったため一体感が醸成されましたし、いけばな初心者の方にも楽しんでもらえるよう体験コーナーを設けたり、Jazz Pianoの旋律にのせて森先生が立花新風体をLiveで生けるステージもあるなど、通常の花展とは異なる工夫もされていて、今の時代にあった花展を具現化することができたのではないかと思います。Jazzといけばなは、いずれも型はあるわけですが、しなやかにその時々の出会いによって形を変えることができるためか、とても相性が良いものだと感じています。2名の知人のJazz Pianistや踊絵師とのコラボレーション・イベントも開催しましたが、池坊東京会館で長く眠りについていたグランド・ピアノが素晴らしい旋律を響かせるようになったことは望外の喜びでもあります。
    「不易と流行」は池坊で学んだ大切な先人の知恵ですが、まさに実践することができたという側面もあり、今後もアイディアを出してできることを提供して参りたいと思っています。
  • 有難うございます。まだまだお伺いしたいことがありすぎて、、次回後編では、高槻さんから見た未来の日本や華道の夢などを語っていただきます。5月後半に掲載しますので、皆様どうぞお楽しみに。
  • 平成28年4月27日 スペシャルインタビュー前編
  • 第1回 高槻氏インタビュー後編 はこちら